広告 プロレス

誹謗中傷の定義を理解して正しくプロレスを楽しもう

誹謗中傷 プロレス

2021年4月、ツイッター上で木村花を中傷したとして、男2人が相次いで侮辱罪で刑事処分を受けました。

この事件を堺に、プロレスラーへの直接の口撃は減ったものの、自身のタイムラインを使った誹謗中傷ツイートは多く見られます。

一方で、誹謗中傷に該当しないような意見に対し「それは誹謗中傷だぞ!」と指摘をする”誹謗中傷警察”も現れています。

本来プロレスは、ファン同士が意見を交わし合うことが醍醐味でもあります。
しかし、誹謗中傷を正しく認識していない人が”誹謗中傷警察”になることで、SNS上で意見の交換の場が奪われている感が否めません。

誹謗中傷は排除されるべきですが、プロレスの楽しみ方の1つが奪われている現状に、プロレスファンの僕としては悲しいです。

実は、僕は1年間ほど、誹謗中傷に関するコラムを執筆してきた経験があります。
そこで、知識を持つ僕が、法的観点から誹謗中傷の定義を紐解いていきたいと思います。
誹謗中傷の知識を身につけ、正しくプロレスを楽しんでもらえたら幸いです。

 

誹謗中傷の意味

辞書で広く知られている広辞苑では、誹謗中傷は『根拠のない悪口を言い相手を傷つけること』(『https://sakura-paris.org/dict/広辞苑/prefix/誹謗中傷』)と説明されています。

ですが、法律では誹謗中傷の定義は存在しません。

 

誹謗中傷の定義

誹謗中傷 プロレス

ではなぜ、誹謗中傷が罪に問われるケースがあるのでしょうか。
それは、誹謗中傷によって引き起こされた権利侵害が罪に問われるためです。

その代表格に挙げられるのが、名誉毀損罪と侮辱罪です。
ですので、「誹謗中傷の定義」=「名誉毀損罪あるいは侮辱罪が成立する条件」と考えるのがベターです。

名誉毀損罪と侮辱罪が成立する条件をそれぞれ見ていきましょう。

 

名誉毀損罪が成立する条件

名誉毀損罪は、刑法第230条1項で以下のように定められています。

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

上記の「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」が、名誉毀損罪の成立条件に当たります。

さらに分かりやすくするために「①公然」「②事実を摘示」「③人の名誉を毀損した」の3つに分解して、名誉毀損が成立する条件を解説していきます。

 

①公然

「公然」とは、不特定または多数の人に伝達する可能性がある場のことを指します。
例えば、以下の場合が公然に該当します。

・人が多数集まる場所での発言(公共施設、学校の教室)
・誰もが目にする場所での広告案内(看板設置、チラシ配布)
・ネット上の書き込み(掲示板、SNS、ブログ)

上記で、もし多くの人に伝達しなかったとしても、不特定または多数の人に伝達する可能性があるので、「公然」に該当します。

フォロワー数がほとんどいないツイッターアカウントが、「俺は言いたいことを言ってるだけだから」と言い訳し、自身のタイムラインでプロレスラーの誹謗中傷を行っている人が散見されます。
しかし、ネット上に書き込んでいる以上、それは「公然」に該当するのです。

 

②事実を摘示

「事実を摘示」とは、具体的な事実を指摘することを指します。

法律上の”事実”とは、真実のことを指すのではなく、「具体的な事柄」のことをいっています。
そのため、真実か否かは問いません。
根も葉もない噂も”事実”に含まれるのです。

 

③人の名誉を毀損した

ここでいう「人の名誉を毀損した」は、実際に他人の社会的評価を下げるのはもちろんのこと、その可能性がある状態も含まれます。

また、「人の名誉を毀損した」の”人”は、自分以外の人を意味します。
親や子供、配偶者等の親族も対象です。会社や法人等の団体も”人”に含まれます。

 

以上の条件①~③を全て満たしている場合に限り、名誉毀損罪が成立します。

 

侮辱罪が成立する条件

侮辱罪は、刑法231条で以下のように定められています。

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は拘留又は科料に処する

上記の「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」が、侮辱罪の成立条件に当たります。

さらに分かりやすくするために、「①事実を摘示しなくても」「②公然」「③人を侮辱した者」の3つに噛み砕いて、侮辱罪を解説していきたいと思います。

 

①事実を摘示しなくても

既述の通り、法律上の”事実”とは、「具体的な事柄」のことを指します。

つまり、「事実を摘示しなくても」とは、「バカ」「アホ」「カス」など、具体性に欠ける言葉も該当します。

 

②公然

「公然」も、既述の通り、不特定または多数の人に伝達する可能性がある場のことを指します。

 

③人を侮辱した者

「人を侮辱した者」の”人”には、会社や法人等の団体も含まれます。

また、侮辱とは、相手を軽んじて、はずかしめたり、見下して名誉を傷つけたりする行為のことを指します。

 

以上の条件①~③を全て満たしている場合に限り、侮辱罪が成立します。

 

プロレスラーへの誹謗中傷に該当する例

誹謗中傷 プロレス

では具体的にどのようなケースだと、名誉毀損罪や侮辱罪が成立するような誹謗中傷に該当するのでしょうか。
3つの例を挙げてみます。

 

【例①】ブログでの書き込み

ブログに、以下2つの内容が書き込まれているとします。

A「マスクド・〇〇は、プロレスが下手くそ。もう2度と試合を見たくない。」

B「マスクド・〇〇は、受け身が苦手だから相手の攻撃を受けない。プロレスが下手くそ。もう2度と試合を見たくない。」

ブログは、「人それぞれの感想を書く場」が前提と考えられています。
「プロレスが下手くそ」「2度と試合を見たくない」は、あくまでも個人の感想と見なされます。

Aは名誉毀損の「①公然」「②事実を摘示」は該当する可能性はありますが、「③人の名誉を毀損した」には当たらないと考えられます。
そのため、名誉毀損罪は成立しない可能性があります。

一方で、Bの場合は名誉毀損に該当する可能性があります。
というのも、「受け身が苦手だから相手の攻撃を受けない」という具体的な感想がプロレスラーの評価を下げやすくするためです。そのため、Bは「①公然」「②事実を摘示」に加え、「③人の名誉を毀損した」も該当すると考えられるのです。

 

【例②】ツイッターのツイート

C「マスクド・〇〇は、ヒールだからってやりすぎだろ。狂乱しすぎ!覚醒剤中毒レスラーめ。」

D「マスクド・〇〇は、ヒールだからってやりすぎだろ。狂乱しすぎ!クソレスラーめ。」

CとDの両方が言っている、「やりすぎだろ」「狂乱しすぎ!」は、例①の「プロレスが下手くそ」「2度と試合を見たくない」と同様、個人的感想に当たるため問題ありません。
しかし、Cの「覚醒剤中毒レスラー」が名誉毀損に当たるおそれがあります。

覚醒剤中毒とは、覚醒剤を打ち続けないと落ち着かない状態のことを指します。

覚醒剤を打つ行為は、覚醒剤取締法の違反行為に当たります。
「覚醒剤中毒レスラー」という言葉は、社会的評価を下げるイメージを持ちます。

そのため、Cは名誉毀損の成立条件である「①公然」「②事実を摘示」「③人の名誉を毀損した」を満たす可能性があります。

対して、Dの「クソレスラーめ」はあくまでも個人の感想の域であると見なされるため、名誉毀損に該当しない可能性が考えられます。

 

【例③】ヤフーニュースにコメント

ヤフーニュースにマスクド・〇〇が試合に負けたというニュースに、以下2通りのコメントがあったとします。

E「また負けたのかよ。しっかりしろよ!」

F「また負けたのかよ。死ね!クソ!」

Eは個人的な感想なので、問題ありません。

一方Fは「死ね!クソ!」が、侮辱罪の成立条件である「①事実を摘示しなくても」「②公然」「③人を侮辱した者」に該当する可能性があります。
そのため、Eは侮辱罪で刑事処分させられる可能性があります。

ただし、そのようなコメントを書き込んだ回数が1回だけでは、刑事処分の対象にならない可能性も考えられます。

というのも、木村花に対する誹謗中傷で侮辱罪の刑事処分を受けた男2人は、いずれも執拗に「死ねや、くそが」「きもい」などと繰り返したことも理由で処分を受けているためです。

このような法律で定められていない個別具体的(具体的な個々の状況による)部分に関しては、過去の判例に基づいて判断されるケースが往々にしてあります。

そのため、1回限りの侮辱なら出来心の範ちゅうと見なされ、侮辱罪に問われない可能性が考えられるのです。

 

「表現」に値する意見を言おう

憲法21条第1項では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定められています。
そのため、プロレスファンが意見を言う行為も憲法上、保証されています。

ただし、意見を言う以上、自分の意見が「表現」に値するかどうかを今一度考えていただきたいと思います。

何かにイライラし、ネットに罵詈雑言を書き込む気持ちも分からなくはありません。
しかし、自身のフラストレーションのはけ口として、乱暴に言い放ったり誰かを傷つけたりする言葉は、「表現」とは言い難いです。

自分の意見を言うからには、「表現」に値する言葉でプロレス談義を楽しんでいただきたいと思います。

プロレスラーに関してだけではありません。
有名人や著名人に対しても、意見をいうのであれば「表現」に値するコメントを心がけましょう。

 

終わりに

2021年2月、インターネット上で匿名の誹謗中傷を受けた被害者が、投稿者を特定しやすくするための関連法改正案が閣議決定されました。
それにより、誹謗中傷を行った者の情報開示にかかる時間が短縮されるなど、被害者の負担が軽減されることが期待されます。

奇しくも、生前”優しい世界”を願っていた木村花の自死をきっかけに、法律の改正が進み始めています。

あれから1年を迎えようとしています。
木村花の想いを無駄にしないためにも、我々プロレスファンから誹謗中傷が起こらない”優しい世界”に進んで取り組んでいきませんか?

誹謗中傷 木村花

画像引用元:https://www.njpwfun.com/entry/2020/05/28/100000

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

かめたく

ファッションとプロレスをこよなく愛する元アパレル店員。独自理論に基づいた着こなし術や人気ファッションアイテムの体験記。また、マニアックな視点から捉えたプロレスの魅力をお伝えします。

-プロレス