”イッテンヨンのメインイベントは現在の新日本プロレスを映す鏡”
2019年のイッテンヨンのメインイベントが決定した際、ふとそう思ったのです。
過去のイッテンヨンのメインイベント
そこで、イッテンヨンが初めて開催された1992年まで遡って、
歴代のメインイベントを振り返ってみました。
年 | メインイベント | テーマ |
1992年 |
IWGPヘビー&グレーテスト18クラブ認定両選手権試合 |
ライバル対決 ※第二世代…藤波辰爾 や長州力、谷津嘉章 、藤原喜明、キラーカーン 、木村健悟らを指す言葉 |
1993年 | ザ・クライマックス・オブ・レスリング 長州力 vs 天龍源一郎 |
団体対抗戦 「新日本プロレス 対 WAR」 |
1994年 | 特別試合・シングルマッチ アントニオ猪木 vs 天龍源一郎 |
団体対抗戦 「新日本プロレス 対 WAR」 |
1995年 | IWGPヘビー級選手権試合・ULTIMATE DYNAMISM 橋本真也 vs 佐々木健介 |
ライバル対決 ※闘魂三銃士…当時売り出されていた橋本真也と蝶野正洋、武藤敬司の3人を指しう言葉 |
1996年 | IWGPヘビー級選手権試合 佐々木健介 vs 武藤敬司 |
ライバル対決 「闘魂三銃士 対 ハセケン」 |
1997年 | IWGPヘビー級選手権試合 橋本真也 vs 長州力 |
新旧世代対決 「闘魂三銃士 対 第二世代」 |
1998年 | IWGPヘビー級選手権試合 佐々木健介 vs 武藤敬司 |
ライバル対決 「闘魂三銃士 対 ハセケン」 |
1999年 | IWGPヘビー級選手権 スコット・ノートン vs 武藤敬司 |
最強外国人 対 闘魂三銃士 |
2000年 | IWGPヘビー級選手権 天龍 源一郎 vs 佐々木 健介 |
新旧世代対決 第二世代 対 ハセケン |
2001年 | 第27代IWGP王座決定戦 佐々木健介 vs川田利明 |
団体抗争 「新日本プロレス 対 全日本プロレス」 |
2002年 | GHCヘビー級選手権試合 秋山準 vs 永田裕志 |
団体抗争 「プロレスリングNOAH 対 新日本プロレス」 |
2003年 | IWGPヘビー級選手権試合 永田裕志 vs ジョシュ・バーネット |
プロレスの存在意義が問われた闘い 「プロレス 対 総合格闘技」 |
2004年 |
IWGPヘビー級王座&NWFヘビー級王座統一戦 |
新日本プロレスの威信を賭けた闘い |
2005年 |
IWGP・U-30無差別級選手権試合 ※経営コンサルタントの草間政一が代表取締役に就任して初のイッテンヨン |
ライバル対決 ※新闘魂三銃士…当時売り出されていた棚橋弘至・中邑真輔・柴田勝頼の3人を指す言葉 |
2006年 |
IWGPヘビー級選手権試合 ※ユークス体制になって初のイッテンヨン |
新日本プロレスの強さが問われた闘い 「外敵 対 新日本プロレス」 |
2007年 |
スーパードリームタッグマッチ"This is レッスルキングダム |
記念試合 ※第三世代…1990〜1992年にデビューした金本浩二・小原道・天山広吉・小島聡・西村修・永田裕志・中西学・ケンドー・カシン・大谷晋二郎・高岩竜一を指す言葉 |
2008年 |
IWGPヘビー級選手権試合 |
ライバル対決 「新闘魂三銃士対決」 |
2009年 |
IWGPヘビー級選手権試合 |
団体抗争 「新日本プロレス 対 全日本プロレス」 |
2010年 | IWGPヘビー級選手権試合 The newest, The strongest 中邑真輔 vs 高山善廣 |
新日本プロレスの威信を賭けた闘い 「新日本プロレス 対 外敵」 |
2011年 | IWGPヘビー級選手権試合 小島聡 vs 棚橋弘至 |
新日本プロレスの威信を賭けた闘い 「新日本プロレス 対 外敵」 |
2012年 |
IWGPヘビー級選手権試合 |
新日本プロレスの威信を賭けた闘い 「新日本プロレス 対 外敵」 |
2013年 |
ダブルメインイベントII IWGPヘビー級選手権試合 ※ブシロードが親会社となった新体制で初のイッテンヨン |
ライバル対決 ※3トップ…当時、IWGPヘビーとIWGPインターコンチネンタルを最前線で戦っていた棚橋弘至、中邑真輔、オカダ・カズチカの3人を指す言葉 |
2014年 | ダブルメインイベントII IWGPインターコンチネンタル選手権試合 中邑真輔 vs 棚橋弘至 |
ライバル対決 「3トップ対決」 |
2015年 | ダブルメインイベントII IWGPヘビー級選手権試合 棚橋弘至 vs オカダ・カズチカ |
ライバル対決 「3トップ対決」 |
2016年 | IWGPヘビー級選手権試合 オカダ・カズチカ vs 棚橋弘至 |
ライバル対決 「3トップ対決」 |
2017年 | IWGPヘビー級選手権試合 オカダ・カズチカ vs ケニー・オメガ |
ライバル対決 ※4強…現在、新日本プロレスを最前線で戦っている棚橋弘至、オカダ・カズチカ、内藤哲也、ケニー・オメガの4人を指す言葉 |
2018年 | ダブルメインイベントⅡ IWGPヘビー級選手権試合 オカダ・カズチカ vs 内藤哲也 |
ライバル対決 |
2019年 | IWGPヘビー級選手権試合 ケニー・オメガ vs 棚橋弘至 |
ライバル対決 |
それぞれのメインイベントの解説
90年代前半は、新日本プロレスが団体対抗戦の相手にしていたWARの大将・天龍源一郎との対戦が続いています。
90年代の中盤から後半にかけては、”闘魂三銃士”と”ハセケン”によるライバル対決を中心に行われていました。
毎年行われるライバル対決は熱狂を呼び、ドームプロレス全盛期と呼ばれるようにまでになりました。
しかし、2001年以降は一変して他団体や総合格闘技を相手に戦う時代に突入します。
それもそのはず、2001年以降は選手が大量離脱し、
新日本プロレス内だけではメインイベントを打てなくなったのです。
苦肉の策として、他団体の代表選手や大物フリーレスラー、当時ブームを迎えていた総合格闘技の選手を呼んで成り立たせていました。
2002年のメインイベントに組まれた、他団体の至宝GHCヘビーを架けた永田対秋山は、
新日本プロレスの至宝IWGPの権威がドン底まで落ちていることを象徴する最たる対戦カードと言えるでしょう。
辛酸をなめ続けた新日本プロレスは、2004年6月に転機を迎えます。経営コンサルタントの草間政一が代表取締役社長に就任したことで、経費の削減を開始します。
草間体制で初めて迎えた2005年イッテンヨンは、当時若手であり、”新闘魂三銃士”として売り出されていた中邑対棚橋でのメインイベントでした。
当時の新日本プロレスについて棚橋はこのように語っていました。
「あの時代は試行錯誤を繰り返す日々だった。」
2000年代後半以降はそれがメインイベントに現れています。
2006年は元WWEの大物レスラー・ブロックレスナーを呼んだと思えば、
2007年のメインは故・橋本真也の話題に乗っかるカタチで武藤と蝶野がタッグを組んだドリームマッチを行ったり等、
試行錯誤をしている様子がうかがえます。
そんな時期を経て メインイベントの組み方に変化が訪れるのが
ブシロードが親会社となって初のイッテンヨンをむかえた2013年からです。
新世代のオカダ・カズチカが台頭し、新日本プロレス同士の戦いが毎年行われるようになりました。
それに比例するように、以下のグラフを見ての通り売上も上がっています。
引用元:http://torja.ca/entame-zanmai1708/
”3トップ”の時代を経て、現在では”4強”時代を迎えています。
2019年のイッテンヨン・メインイベントから見えること
以上のように、ざっと振り返るだけでも、
新日本プロレスの時代の流れをイッテンヨンのメインイベントからうかがい知れます。
まさに、”イッテンヨンのメインイベントは新日本プロレスの時代を映す鏡”と言えるでしょう。
では、2019年のイッテンヨン・メインイベントからは新日本プロレスの”どんな今”が見えるのでしょうか。
今年も引き続き、4強による対戦カードになります。
先日行われた対戦カード発表記者会見では棚橋とケニーによる壮絶な舌戦が行われました。
棚橋が
「ケニーのプロレスは食傷気味なんですよね。プロレスは激しく厳しいものであっても、残酷なものではあってはならないって。ケニーは技術が良い、ビジュアルも良い、運動能力もすごい。けど、『何かが違うな?』って感じてて、『なんだろう?』と思って昨日気付きました。ケニーのプロレスには品がない」
と言えば、ケニーはこう切り返しました。
「不思議なことに、その品のないプロレスを観て、大変困難な状況から克服することができたという人がたくさんいます。例えば、うつ病で悩む人、アルコール中毒で悩む人、そういった人たちが自分のプロレスを観て、辛い状況から克服できた。インスピレーションを受けたと言っている。自分のやっているプロレスこそが品のあり、そして最高に優美なものだと信じている。」
2人のプロレス観は真っ向にぶつかったのです。
「プロレスは夢を与える職業であり、その過程に残酷さがあってはならない」というのが棚橋の考えなのでしょう。
一方、ケニーはこれから新日本プロレスをよりグローバルなものにするために、「残酷」に似て非なる「極限の戦い」をプロレスに採り入れ新たなファンを取り込んでいます。
両者の間には、「守ろうとする姿勢」と「新しいことに挑戦しようとする取り組み」が交錯しているのです。
現在の新日本プロレスは、正解進出に向けて今までにないほど様々なレスラーが1つのリングで戦いを繰り広げています。
国籍も違う、辿ったきた経歴もバラバラ、そんな選手たちが6メートル四方のリングに集まれば、
プロレス観の違いが生じるのは想像に固いです。
とはいえ、新日本プロレスは世界進出という1つの目標に向かって今一度、
ふんどしを締め直さなければないなら時期に来ているのではないでしょうか。
奇しくも、そんな時期にプロレス観の異なる2人がメインイベントで戦います。
何か2019年のイッテンヨンには、
「棚橋とケニーどっちのプロレス観で世界と戦うのか」がテーマに科されているように見えてなりません。