【後編】では、【前編】【中編】で系譜と歴史を辿って見えてきた4つのことについて話していきたいと思います。
①系譜によって特色がある
まず、系譜によって特色があることが分かりました。
それぞれの系譜の特色を見ていきましょう。
全女系
全女イズム最後の後継者と言われている高橋奈七永は、プロレス格闘技マガジン「Dropkick」のインタビューで、インタビュアーと以下のような会話をしています。
高橋 全女はプライベートでの関係性がそのままリングに持ち込まれていましたからね。
――全女が凄いのは、フロント陣が選手間の対立を煽ってたんですよね。
高橋 ああ、そうなんです。私も前川久美子さんと、些細なイザコザがきっかけでリング上での抗争に発展しましたからね。たしか前川さんが後輩を殴ろうとしたときに、私が止めに入ったんですよ。そのときに私の手が前川さんに当たっちゃって、私が前川さんを殴ったみたいになっちゃって。そこから確執が始まった感じですね。
――その確執を聞きつけた会社がマッチメイクすると。
高橋 それを聞いちゃったら会社は試合にしますよね。つまり「外でやるならリングの上でやれ!」ということだと思うんですけど。
引用元:https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1704112
人と人の間には綺麗ごとだけでは語れない嫉妬や悔しさなど、いわゆるマイナスな感情が当然としてあるでしょう。
プライベートでの関係性がそのままリング上に持ち込まれるのが全女系です。
そのため、某昼ドラのようなドロドロな闘いから、明るく華やかな闘いまで、喜怒哀楽の全てを表現するのが全女系の特色と言えるのではないでしょうか。
【(3分16秒から)ドロドロなやりとりをするスターダムの中野たむ・なつぽい】
ジャパン女子系
ジャパン女子系の特色は、全女系と差別化を図るために見出した格闘技路線でしょう。
しかし、ジャパン女子系の「PURE-J女子プロレス」と「LLPW-X」の現状を見てみると、いずれも所属選手が少なく、多くのフリー選手や他系譜の選手を参戦させることによって興行が成り立っています。
そのため、実際は格闘技路線色が弱まっています。
全女・ジャパン女子ミックス
全女・ジャパン女子ミックスの特色は、「こだわりのなさ」と言えるかもしれません。
全女・ジャパン女子ミックスの「OZアカデミー」と「プロレスリングWAVE」は、いずれも新人の育成は積極的に行わず、フリー選手や他団体の選手を参戦させることで興行を成り立たせています。
そのため、特色が見えません。
しかし、「プロレスリングWAVE」を覗いてみると、変則ルールの試合をしたり、リーグ戦をユニークなブロック分けにしたり等、奇想天外な発想で興行を開催しています。
手堅いプロレス団体から見ると、「もっとこだわりをやってやれ」と思うかもししれません。
しかし、こだわりのなさは一過性ではなく、一貫性を持ってやっています。
そのため、こだわりのなさが特色になっているように見えるのです。
これは、全女系とジャパン女子系で様々なプロレスを経験したからこそ作り出せる女子プロレスの世界なのかもしれません。
【「プロレスリングWAVE」の試合動画】
さくらえみ系
さくらえみ系の特色は、高いエンターテイメント性でしょう。
さくらえみが所属していた「FMW」は、「おもちゃ箱をひっくり返したようなプロレス」をうたい文句とし、異種格闘技、デスマッチ、女子からミゼットまで何が飛び出すか分からないエンターテイメント性のあるプロレスを展開していました。
現在、「プロレスリング我闘雲舞」は、配信専用プロレス「チョコプロ」など、様々な形のプロレスをやっています。
その姿は、かつてFMWが掲げた「おもちゃ箱」的な要素を感じずにはいられません。
【チョコプロ】
DDT系
DDT系の「東京女子プロレス」は、旗揚げ当初は、プロレスの試合とアイドルライブで構成された興行を行っていました。
その名残で、アイドル感があるのが特色である。
実際、ご当地アイドル「LinQ」の元メンバー伊藤麻希や、SKE48とプロレスの二刀流で活躍する荒井優希など、多くの元・現アイドルが活躍する場になっています。
【荒井優希 VS 鈴芽】
スペルデルフィン系
スペル・デルフィン系の特色は、ユニークさではないでしょうか。
1994年、デルフィンは新日本プロレス主催の「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア」で優勝決定戦まで駒を進めました。
その際、優勝を競う獣神サンダー・ライガーと同じようなコスチュームで登場したのです。
一見すると、同じ見た目の2人が優勝を争うという光景は、後世に語り継がれる珍事になりました。
【(2分29秒から)獣神サンダー・ライガーと同じようなコスチュームで試合をするスペル・デルフィン】
このユニークな発想がデルフィンの真骨頂ではないでしょうか。
デルフィンが過去に立ち上げた「大阪プロレス」「沖縄プロレス」「海鮮プロレス」でも、多くのユニークレスラーを輩出しています。
例えば、「大阪プロレス」出身のえべっさん(現:菊タロー)やくいしんぼう仮面、「沖縄プロレス」出身のめんそ~れ親父(現:ブラックめんそーれ)などが挙げられます。
スペルデルフィン系の「2point5女子プロレス」は立ち上げ間もない団体のため、どのような団体になるかは未知数です。
とはいえ、デルフィンが手掛けるからにはユニークさを特色にしていくのではないかと予想されます。
②現在の構図は「スターダム」「東京女子」「その他」の3つ
女子プロレスの系譜は6つに大別されると触れましたが、現状のリング上を見てみると、「スターダム」「東京女子プロレス」「その他」の3つに分断されています。
「スターダム」と「東京女子プロレス」は、基本的に自団体の所属選手のみで興行を開催しています。
一方、「その他」の団体はどこも所属選手が10名未満のため、自団体だけでは興行を開催出来ません。
そのため、系譜に関係なく他団体の選手やフリー選手を参戦させることで興行を成り立たせています。
「スターダム」「東京女子プロレス」以外は、団体の特色が薄れているのが現状です。
遠くない将来、全女系やジャパン女子系というワードは死語になり、「スターダム系」「東京女子系」という言葉が誕生するかもしれません。
③スターダムは全女系と絡んでいる
スターダムは、基本的には自団体の選手で興行を開催しているものの、例外的に「Marvelous」や「SEAdLINNNG」と絡みがあります。
僕は、女子プロレスを長く見ていないので、その理由が分かりませんでした。
ですが、系譜を見ていくと納得です。
「スターダム」「Marvelous」「SEAdLINNNG」は同じ全女系です。
同系譜なので、ウマが合うのでしょう。
④日本に女子プロレス団体が多い理由
日本は世界的に見て、女子プロレス団体が非常に多い国です。
なぜ日本は女子プロレス団体が多いのでしょうか。
それは、「全日本女子プロレス」が大きな成功を収めたのが大きな理由かもしれません。
歴史を振り返ると、「全日本女子プロレス」の成功に目をつけた芸能プロダクションなどが続々と女子プロレス界に参入しています。
その結果、女子プロレス団体が乱立している様子が分かります。
世界では、男子プロレス団体内に女子プロレス部をつくる、あるいは男女混合のプロレス団体で女子プロレスラーが所属しているのが一般的です。
そのため、「全日本女子プロレス」のような、大きな成功を収めている女子プロレス団体は、世界的に見ても存在しません。
もし、アメリカで女子プロレス団体が大きな成功を収めたら、それをビジネスチャンスに、多くの女子プロレス団体が誕生していたのではないでしょうか。
また、所属選手が少なく自団体だけで興行を開催出来ないにも関わらず、団体の合併がないのも疑問でした。
その疑問は女子プロレスの歴史を振り返ることで少し見えてきた気がします。
それは、団体を立ち上げた理由がそれぞれ違うからではないかと考えられます。
例えば、長与千種は、北斗晶に「女子プロレスを何とかしてください」と言われ続けたことなどを理由に「Marvelous」を立ち上げています。
また、井上京子は、「本気のプロレス、本当のプロレス、本物のプロレス」を掲げて「ワールド女子プロレス・ディアナ」を設立しました。
それぞれの団体が各々の目的で団体を立ち上げたため、団体を統合することは難しいのかもしれません。
終わりに
女子プロレス団体の系譜を辿っていくと、女子プロレスブームに目を付けた複数の芸能プロダクションが女子プロレス界に参入していることが分かりますが、いずれも長く存続していません。
芸能プロダクションなどが女子プロレス界に参入した詳細な理由は分かりません。
とはいえ、長続きしていない、あるいは経営不振になると他の会社に事業譲渡している歴史から推察すると、女子プロレスの人気に乗じて金儲けのために参入したと考えられます。
「プロレスは人生の縮図」という言葉があります。
女子プロレス団体の系譜を辿ったら、「お金は追うと逃げる」ということを学びました。